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観る−技術・工芸

(更新:2008.8.8)
伝統工芸 江戸手描提灯
大嶋屋提灯店
〜その二〜
●変化してきた提灯制作の道具類
 提灯は昼間よりも夜間のほうがずっと際立つ。何しろ電気のない時代の夜は、提灯の灯りが頼りだった。その提灯の火種に欠かせないのがロウソク。しかしこの道具も、最近では本物のロウソクの代わりに「ロウソク電灯」が使われている。形だけロウソクに似せた電灯である(提灯の下部に電池を収納する)。
  提灯に付き物のロウソク一つとってみても、昔と今とで違う。先に紹介した、提灯作りの道具類もまた、木炭から鉛筆へ、墨から絵の具へというように、長い時を経て変化してきた。石井さんには、道具類について、職人としての“こだわり”があるのだろうか。
  「道具は、昔より今のほうがずっとよくなってますよ。私の場合は、親父が使っていたのをそのまま使って、使っているうちに、自分なりに工夫し改良してきました。やはり、古いだけじゃだめだと思いますね。その点、若い人たちは柔軟性があります。インターネットが発達して情報が入りやすくなったのもあるでしょうが、例えば、今まで使ってきた塗料が気に入らなくて、“もう少しいいものないかなぁ”なんて話すと、どこからか新しいものを仕入れてきて“これでどう?”なんて言ってくるんですよ」
  職人さんというと、失礼ながら私は“頑固”なイメージを抱いていたのだが、石井さんはそんなイメージとは逆に柔軟性があって、自身、まだお若い。
写真中央に見えるのが、白いロウソクの形をした「ロウソク電灯」。 墨入れをする石井さん。この日は、赤い絵の具を使用。“息を詰めて一気に”描いていく。
写真中央に見えるのが、白いロウソクの形をした「ロウソク電灯」。 墨入れをする石井さん。この日は、赤い絵の具を使用。“息を詰めて一気に”描いていく。


●大嶋屋提灯店と素盞雄(スサノオ)神社
 大嶋屋提灯店から、コツ通りをさらに奥へ進むとその先に素盞雄神社がある。石を神として奉っている石神信仰の神社である。遠く延暦14年(795年)、素盞雄命(スサノオノミコト)と事代主命(コトシロヌシノミコト)の二神が現れ神託を告げて創建したという、由緒ある神社だ。
  実はこの神社と大嶋屋提灯店とは、切っても切れない間柄なのだ。本記事の冒頭で述べたように、大嶋屋提灯店は、初代・作次郎氏が修行した大嶋屋から暖簾分けされたのだが、その際、この素盞雄神社の提灯制作の仕事を紹介してもらったという。大嶋屋開店以来の“お得意様”なのである。
  その素盞雄神社に出向いてみた。神社の入り口には大きな鳥居が建つ。その両側に、これまた目立つ大きな提灯が掛けられていた。この提灯は、もちろん、大嶋屋謹製である。この神社では、例年6月に「天王祭」が行われる。祭りに向けて、石井さんの店も忙しくなる。祭りを彩るため、御神酒所に飾る提灯などを一手に手がけているからだ。
素盞雄神社入り口に建つ鳥居。その両側に掛けられている提灯が参拝客を迎える。 社務所で見つけた、愛嬌のあるスサノオノミコトのお人形。その両側には提灯が飾られていた。
素盞雄神社入り口に建つ鳥居。その両側に掛けられている提灯が参拝客を迎える。 社務所で見つけた、愛嬌のあるスサノオノミコトのお人形。その両側には提灯が飾られていた。


●提灯作りの伝統を継いで、そして今後に向けて
 三代にわたる提灯文字制作を引き継いでいる石井さん。その間の“苦労話”を聞いた。
  「親父(二代目)が現役の頃は、提灯に文字なんか書かせちゃくれない。節約のため水で薄めた墨を使っても“もったいない”なんて言われ練習もままなりません。もっぱら組立作業を手伝わされていました。下書きも残してくれなかったので、自己流で覚えました。親父のそばにいて、仕事っぷりはよく見て頭に入ってるんですが、いざ書いてみると手が思うように動かず、親父のように上手く書けない。納得できる文字が書けるようになるまでずいぶん時間がかかりましたね」
  そうした苦労の経験もあるので、次代、四代目を継いでもらう人のために(?)、これまでご自身が手がけてきた提灯文字の下書きなどを、できるだけ残しているという。
  「今は、昔のように“見て覚えろ”ではダメ。“まずはやってみろ”ですね、無駄になってもいいから。若い人は、手筋がよければどんどん上達しますよ。覚えるのも早いし」。石井さんの若い人たちへの期待感が伺える。さらに続けて石井さんは話す。
  「私がまだ若い頃は、他のことにはあまり興味がありませんでした。面倒な思いもありましたし。今は、どこへ出かけるにしても、何にでも興味を持って接しています。そこに神社があれば出向き、提灯があれば書かれている文字を見たりします。今でも苦手な文字があるので、人の書いた文字を見て、上手いと感じた文字はじっくり見てきます。
  自分の世界だけに閉じこもっていると、それで狭まってしまいます。親父がよく“一生、勉強だ”と言っていましたが、そのとおりです。この仕事は定年があるわけではないので、身体の続く限り、続けたいと思っています」
  石井さんご自身のことを話されているのだが、若い人たちへのメッセージでもあるようだ。石井さん、これからもどうぞお元気で、日本の伝統美をお守り下さい。
素盞雄神社にある大提灯のアップ。石井さんの手になる江戸文字をとくとご覧あれ。 現代の若い人たちに好感を持ち、期待を寄せる石井さん。
素盞雄神社にある大提灯のアップ。石井さんの手になる江戸文字をとくとご覧あれ。 現代の若い人たちに好感を持ち、期待を寄せる石井さん。

■大嶋屋提灯店
東京都荒川区南千住7-7-2 電話(03)3806-4789 FAX(03)3801-4789
営業時間:午前9時〜午後6時 年中無休
(了)
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